多くの施設・公共交通機関で導入されている「○○コーティング」
抗菌・抗ウイルスコーティングは、建物内のいたるところ──ホテルの客室、電車やバスのつり革や手すり、座席などを有効成分でコーティングし「新型コロナ対策をサポートする」名目で脚光を浴びている施工技術です。
新型コロナウイルスとの戦いは、目に見えない敵との戦い。その味方になってくれそうな「抗菌・抗ウイルスコーティング」も、やはり目に見えない分子レベルの世界。
だからこそ「本当に効果あるの?」「次亜塩素酸水の空間噴霧に効果がなかったときみたいに、またダメなのかも……」と感じる人も多くいると思うので、ここで詳しく説明したいと思います。
結論
冒頭の問い「本当に効果あるの?」への答えはこうです。
「あなたが見聞きした『効果』によります」
……なぜこのような答えになるかというと、新型コロナウイルス感染症流行による混乱により、市場の情報も玉石混交になっているからです。
科学的根拠をもって真摯に説明している製品・業者もあれば、世間の不安に乗じて、曖昧な、含みを持たせた表現をすることで、実際以上の効果があると錯覚させる製品・業者も存在しています。
なお、
・特定のメーカーの特定の製品を否定する記事ではないこと
・世に出回るすべての製品の仕組みを理解した上での記事ではないこと
※とはいえ、決まった型はあるので汎用性の高い情報です。
は、あらかじめお断りさせていただきます。
それでは早速、結論の詳細をお伝えします。
抗菌・抗ウイルスコーティングでよく謳われる効果や、曖昧な表現からつい想起してしまう効果、副次的に想像できる効果について、その真偽を下表にまとめました。
各番号から該当箇所へジャンプすることもできますので、ご活用ください。
謳われる/想起する効果
結論
×印が多くて気が滅入りそうですが……③は希望の光ですね。
これら6項目について、抗菌コーティングのメカニズムとともに詳しく説明していきます。
主な抗菌・抗ウイルスコーティングのメカニズム
※上記6項目が理解できる範囲で簡略化して記載しています。化学反応式が知りたい方は、各々で検索してください。
・光触媒によるもの
この後紹介する2種類のコーティングにも、光触媒成分が含まれていることが多いくらい、メジャーかつ効果的な成分です。成分表示では「酸化チタン」と書かれているものが多いです。
この成分は、ある波長の光を受けることによって、空気中の水分や酸素と反応し「活性酸素」を生み出します。
その活性酸素がウイルスを攻撃することで、ウイルスを不活化するという仕組みです。
・銀イオン(他、銅イオンなど金属名+イオンと名のつくものも含む)
銀イオンは、制汗剤にも使われている身近な成分です。
銀イオンの抗菌・抗ウイルスメカニズムは複数仮説があるのですが、そのうちの2つを紹介します。
A:光触媒効果
……上記の光触媒と同じく、特定の光を受けることで活性酸素を生み出し、活性酸素がウイルスを攻撃します。
B:銀イオンそのものの効果
……銀イオンは不安定な物質のため、すぐに周りの物質と結合しようとし、ウイルスの内部にも侵入することが可能です。
侵入後、ウイルスの機能維持に必要なたんぱく質やアミノ酸等の構造に結合することで、その機能を停止させ、ウイルスを不活化します。
ただし、Bのメカニズムだと、銀イオンは別の物質に変化するため、銀イオンの総量が減っていきます。
そのため、効果の持続性を謳っている製品の場合には、銀イオンは壁などの施工対象から離れていかないように接着されることになるため、Aの効果で戦っていると見た方がいいでしょう。
反対に「別売りの専用クロス・除菌剤で定期的に拭いてください」などの記載がある場合には、⑥の持続性がなく、銀イオンはBの効果を発揮していると見た方が良さそうです。
・プラチナ
プラチナだけは、これまでの2成分とは真逆のメカニズムを持っています。
抗菌・抗ウイルスコーティングに使用されるプラチナはナノサイズの微粒子で、水をまとった形をしています。(その状態を「プラチナコロイド」とよび、有効成分として表記している製品も多いです)
この状態になったプラチナは、常に電子を発生させています。その電子が安定を求めて、周辺のウイルスから酸素を奪うことでウイルスを不活化します。
これを科学的な用語で「還元作用」といいます。
化学の授業で「酸化・還元」って聞いたことありませんか?これまでの2成分の、活性酸素による効果は「酸化作用」によるものなので、真逆の性質と言えます。
・有効成分を複数配合しているタイプもある
色々な有効成分が配合されていると「効果がありそうだ」「1種類より2種類、2種類より3種類!」と考えがちですが、少し注意が必要だと私は考えています。
それは、プラチナが持つ「還元作用」は、活性酸素をも無力化してしまうという点。ちょうどプラスとマイナスが打ち消し合うような構図です。
つまり、複数配合タイプは、その実お互いの効果を打ち消し合っている可能性があるため、効果を証明するデータが整っているかどうかは要確認といえるでしょう。
・その他のタイプに見えても実は……?
カリウム40という放射性同位体(放射性物質)を主たる有効成分と謳っている製品を目にしたことがあります。(製品紹介の中では、放射線という言葉はぼかされていましたが……不安になっちゃいますものね。)
殺菌効果だけ見ていると「放射線のみでこの効果なら、自然放射線の数百倍の線量なのでは?」という印象でしたが、有効成分を確認すると、光触媒の方が割合としては圧倒的に多いようでした(ある意味安心?)。
このケースからもわかる通り、基本的には上記3種類が、抗菌コーティングの主な成分だと考えていいでしょう。
その他の成分を全面に出していたとしても、それは補助的な添加物と疑って調べた方がいいと思います。
メカニズムから見えるコーティングの効果の範囲
これまで紹介してきたメカニズム、共通しているのは「なんだかすごくミクロの世界での話なんだな~」ということではないでしょうか?
実は、効果の範囲も、同じくミクロな世界。コーティングされた「ほんの表面」で起こる反応が、これまで述べてきたメカニズムなのです。
ここから導き出される結論は、冒頭の①~③と⑥です。
①空気感染・飛沫核感染を防ぐ効果はほぼ期待できない
⇒空気や、空気中を飛び交う飛沫核に、コーティング表面に生み出された活性酸素や電子が影響することはほとんど考えられません。「ほぼ」としたのは、まだ解明されていない現象の存在や、空気中の物質間を化学反応がうまく伝導していく可能性も無きにしも非ずだからです。
また、唯一効果が期待できそうなのが、前項で最後に紹介した放射性同位体による効果です。これは、放射線が空気中を直進していく性質を持っているためです。しかし、放射線は自然界にも存在しているので、些末な問題です。些末と言えないほどの効果を発揮するには、些末と言えないほどの放射線量を必要とするため、今度は人体に影響が出てくることになるでしょう。
②飛沫感染を防ぐ効果はほぼ期待できない
⇒こちらも同上です。空気中を短時間、しかも鼻水や粘液などの有機物を多分に含む状態で飛んでいるのが飛沫ですから、効果はほぼ期待できないと言えるでしょう。
③接触感染を防ぐのを助ける効果は期待できる
⇒コーティング表面に付着したウイルスには効果が期待できる、ということですね。
しかし、どうして「防ぐのを助ける」という、遠回しな言い回しになるのでしょうか?
下記の3つが理由になります。
A:表面が汚れたら、効果が薄れる。
B:エビデンスに見せかけた、真に受けてはいけない実験結果がある。
C:ウイルスが付着してから、不活化するまでに少し時間がかかる。
次項から、ひとつずつ紐解いていくので、この3つの理由は覚えておいてくださいね。
⑥効果が半永久的に持続する……と思うのはちょっと待って
抗菌・抗ウイルスコーティングの持続性は、下記の2種が主流です。
1:効果が持続せず、有効成分の定期的な補充が必要な製品
2:効果が持続するにはするが、実用的な条件ではない製品
前者は、銀イオンの項目で述べたように、有効成分が消費されていくメカニズムを持つもの。
後者の「効果が持続する条件」は何かというと
・活性酸素が届くよう、表面がキレイであること
・コーティングが削りとられるような物理的衝撃がないこと
……これが実用的だと思いますか?
接触感染を防ぐために、テーブルやドアノブ、手すりなどにコーティングを施したとして、手入れなしに表面がキレイであり続けて、表面に物理的な衝撃もなく……って、なかなかあり得ない話ですよね。
そのため、効果の持続性については、
①有効成分が消費されていかないか確認(銀イオンなら特に!)
②削り取られやすい性質のコーティングではないか確認
③コーティング任せにせず、自分たちで定期的な拭き掃除ができるか確認
この3つがそろって初めて、持続性が期待できると考えてよいでしょう。
だまされないためのエビデンスの正しい見方
多くの製品は「○○機関で効果に関する試験結果を取得しました」と紹介があるはずです。
もっともらしい証明書の数々に、ついつい「これは効果がありそうだ!」と前のめりになってしまうのは、仕方ないことですが、ちょっと待ってください。
その試験結果のほとんどが、実際の効果と関係のないものになっているという、悲しい現実をお伝えします。
とはいえ、この業界の慣例になっている試験(次項で紹介)もあるので「関係ないデータが出てきた!けしからん!」となるのは早計です。
大切なのは「これは期待していいエビデンスか、期待してはいけないエビデンスか」を区別することです。
※十中八九、期待してはいけないエビデンスしか出てこないのですが……そうなった時に初めて効果を疑うのが適切です。
⑤試験でウイルスを99.xx%不活化しているから効果がある、は優良誤認の可能性大
下手をすると細菌やカビでしかエビデンスを取得していない製品もありますが、それは論外として、ウイルスに関する試験を行なっている製品に限って、今回はお伝えします。
この「ウイルスを99.xx%不活化」とか「それもたったの5分間で」というような謳い文句は、優良誤認の可能性がとても高いです。
この試験は業界の慣例でもあるので、一番よく見かける試験結果ですが……これだけしかウイルスに関するエビデンスを持っていない製品には注意して下さい。
このエビデンスの何がいけないかというと、試験の方法です。
報告書の詳細部分や、備考部分を確認してください。
「ウイルスをコーティング液○mLに直接入れて、5分後に活性のあるウイルスの数を数える」
──99%、このやり方で出た数値です。
今一度思い出してほしいのですが、コーティングは、壁や机などの環境表面に「薄く塗り広げて」「乾燥させた後に」「表面に付着したウイルスを」不活化するものです。
この試験のやり方では「試験管に1cm程度の厚さで」「アルコール系の揮発剤が含まれた状態で」「コーティング液がウイルスの周りを360度覆っている状態で」不活化するかどうか、です。
これでは、5分後に99.xx%不活化するのは当たり前といっても過言ではありません。
ちょっとオタク的な見方:光の強さもごまかされてるかも
光触媒系の有効成分だと、時折提示されているのが「光活性」のデータです。
光をあてたらこれくらいの効果があった⇒だからこれは間違いなく光触媒だし、抗ウイルス効果があるよ、ということを証明したいデータです。
これも「ふむふむ、確かに」と思う前に詳細を確認してください。
確認すべきは、あてた光の「照度(ルクス・lux・lx)」です。
これが10,000や100,000などの場合、室内での効果は期待できません。これでは屋外レベルの明るさだからです。
抗ウイルス効果を発揮してほしいのは、室内ですよね?ならば、太陽光を直接浴びなければ効果が出ないようなコーティングは、導入するべきではないはずです。
おおよそ1000を下回るあたりから室内が視野に入り、2~400くらいが実用的なレベルだと覚えておくと良いでしょう。
なぜこれを取り上げたかというと、有効成分を環境表面に接着させるための接着剤(専門用語でバインダーといいます)が、有効成分の表面の多くを覆ってしまい、光触媒としての効果が低減⇒蛍光灯の光では効果を発揮できないコーティングが数多くあるからです。
それもそのはずで、もともとこの技術は、建物の外壁の防汚処理に使われていた技術なので、屋外レベルの照度で効果が出れば問題なかったという過去を持っているのです。そのため、こういった製品は数多く出回っています。
注意して見てみるのが吉です。
じゃあ、どんなエビデンスなら信じていいの?
それは、これまで述べてきた「期待してはいけない」エビデンスの逆です。
その要素は
・実際の施工と同じように薄く塗って乾燥させたコーティング表面を対象とし
・その表面にウイルスを塗り
・200~400ルクスの明るさの環境で反応させた
そんな条件で、ウイルス不活化効果が出た!
というようなエビデンスであれば効果のほどを信じて良いでしょう。
信じていいコーティングはこの世に存在するの?
ここまでくると、コーティングの導入を真剣に検討されている法人の方ほど、そんな疑問を持つのではないかと思います。
それくらい、エビデンスが整っているコーティングが、世の中に少ないからです。
『少ない』だけで、存在はしています。
それが、エビデンスにうるさい当社が唯一取り扱っているコーティング剤「ナノゾーンコート」です。
上記の条件がすべて整っているエビデンスが出ています。
コーティングの効果の限界:瞬間的な不活化ではない!
ナノゾーンコートは、光触媒素材として最も価格と効果のバランスが取れている「酸化チタン」を有効成分としているコーティングです。
そして、その酸化チタンの粒をナノサイズにすることで、効果を抑えてしまう原因になるバインダーを不要にし、酸化チタンの表面積を最大化することで、活性酸素の発生量も最大化している製品です。
また、酸化チタンがナノサイズになることで、環境表面との量子力学的な結合が可能になり、通常の使用では削り取られにくい性質にもなっています。
そのような、コーティングとして最適解ともいえる性質を持つナノゾーンコートですら、
不活化の効果とそれにかかる時間は下記の通りです。
2時間で:530万個のヒトコロナウイルスが31万個まで減少(94.038%減)
8時間で:530万個のヒトコロナウイルスが1800個まで減少(99.965%減)
先ほどの、信じてはいけないエビデンス「5分間で99.xx%不活化」を期待していた人にとっては、見劣りする結果だと思います。
しかし、化学的な性質から見て、これが、今の技術での抗菌・抗ウイルスコーティングの限界と言っていいでしょう。
つまり、このエビデンスは、魔法のような新型コロナウイルス対策を求める人にとってみれば、導入を躊躇してしまう材料になります。だから、このようなエビデンスを出せる性能を持ったコーティングでも、表に出していないメーカーが多いのかも……という、ある種業界の闇のようなものも垣間見える結論に至ってしまいました。
さて、即効性がないなら、当社が取り扱っている「ナノゾーンコート」も、無用の長物じゃない?と思う方もいるかもしれません。
最後に、コーティングの性質を正しく理解した上での付き合い方について、お伝えしていきます。
電車の消毒頻度を知ると、コーティングの魅力がわかる
突然ですが、普段皆さんが使っている電車の消毒頻度って、どれくらいだと思いますか?
2020年3月の東洋経済ONLINEの記事で、コロナ流行を受けての電車の消毒頻度変更に関する記述があります。
それを見ると鉄道各社によって異なりますが『7日周期』『15日周期』と記載があります。
……どうですか?
「思ったより頻度が少ない!!」と思ったのではないでしょうか?
(※昨年の3月時点の周期です。今現在の周期と異なる可能性があります。)
そうなってくると、急にコーティングが魅力的に思えませんか?
即効性はないけれど、消毒と消毒の合間を、静かにウイルスから守ってくれるのがコーティング、という考え方ができますね。
当社が日常清掃に入らせていただいている建物でも、通常は1日1~2回の清掃です。
コロナ対策で清掃頻度を増やしているお客様先もありますが、それでも、人が触る可能性が高いところのみにとどまっているため、完璧ではありません。
そこを補ってくれるのが、抗菌・抗ウイルスコーティングです。
下に、前述のエビデンスをもとに、コーティングが私たちをどれだけウイルスから守ってくれるかを簡易的なモデル計算をして、表にまとめました。
常に新たなウイルスが付着する環境というのは、実際の環境にとても近いですね。
そのような中で「コーティングなし」の環境では、なすすべなくウイルス量が右肩上がりに増えていく一方で、「コーティングあり」の環境では、ウイルス量がほぼ一定量に抑えられているのがわかります。
もちろん、実際の環境ではウイルスが付着する量も時間によってまちまちですし、コーティング表面が何かベタっとしたもので汚れたりすると、ウイルスの不活化効果が落ちてしまうので、この計算通りにはいきませんが、四六時中消毒して回る余裕がない多くの事業者においては、コーティングの有用性はとても高いといえるのではないでしょうか?
抗菌・抗ウイルスコーティングとの正しい付き合い方 ⇒感染リスクは低くなっている!守られながらも、自己防衛を!
これまで「抗菌・抗ウイルスコーティングは本当に効果があるのか?」ということについて、化学的観点から説明してきました。
最後に、抗菌・抗ウイルスコーティングとの正しい付き合い方についてお伝えして、終わりにしたいと思います。
先ほどの、簡易モデルで算出したコーティングの効果の表を、もう一度見てください。
「コーティングあり」の表の中でずっと残り続けている「100万個のウイルス」は、いったいいつ付着したウイルスなのか、わかりますか?
それは「最近付着したばかりのウイルス」です。
私たちは、コーティングにより「少し前に付着したウイルスの脅威」からは守られています。
しかし、「最近付着したばかりのウイルスの脅威」からは、残念ながら守られていないのです。
「コーティングあり」の建物や乗り物内で過ごすのは、「コーティングなし」の建物や乗り物内で過ごすよりはずっと安全です。
ただ、その安全は限られたものであるということを忘れずに。
「今自分が触ったここには、最近付着したばかりのウイルスがいたかもしれない」
そして
「このコーティング、もしかしたら信用できないタイプのコーティングかも」とも考え、
・手洗い
・手指消毒
・なるべく目・鼻・口に触らない
といった、間接接触感染対策を忘れずに行うことが重要です!
長期化が予想されるウィズ・コロナ期を、正しい知識で乗り切りましょう!
お読みいただき、ありがとうござました!
当社では、玉石混交の抗菌・抗ウイルスコーティング製品群の中でも
ずば抜けてエビデンスが整っている「ナノゾーンコート」の施工を取り扱っております。
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