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№92 「再生・延命で未来をつくる」
令和3年7月28日(水)
株式会社染めQテクノロジィ
代表取締役 菱木 貞夫様
1, 菱木社長の生い立ちと、今に至るまでのご経歴
私の両親は本当に極端な人でした。
父親は明治41年生まれですから、今思えば歴史を感じますね。時代が貧しかった時ですけれど、とりわけ貧しい家だったようです。職人の倅として生まれた父は中学も十分通えず、何とかしなければと苦労して薬剤師の免許を取りました。でも薬屋はずっとお客様を待っているだけの商売だからと、戦争から帰ると塗料会社を創業しました。そして、順調にその事業を大きくしていきました。
仕事だけでなく、体も鍛えようと若い頃から柔道の町道場に通って。最後は講道館に入門し、全日本選手権に出場するくらいに、自分に厳しく柔道も極めた人です。そうした多くの苦労をしてきたにも関わらず、息子に対してはものすごく寛大でした。それをいいことに、若い頃の私は生意気で、父親を少し舐めているくらいでした。罰当たりですね。反対に母親は本当に厳しく、嫌な人でした。子供の頃の私は走るのが速くて、運動会ではいつもダントツでした。走るだけでなく、どういうわけか勉強もできて、よく何かの表彰を受けましたが、そんなことに母は全然興味を示してくれない。父兄会など、友だちのお母さんは学校に来てくれるのに、うちの母親は全く来ませんでした。口うるさいだけの母親で、よく怒られ、押し入れに入れられたり、言われたことをしなかったりとあれば、本当に殴られました。普通の親じゃない感じですね。この人は本当の親じゃないと思って、小学校の時に3回も家出をしました。
ところが後になって、父親を軽んじていたんですけれど、なかなかの人物だと気付きましたし、母親も思いの強い人だったと知りました。ずいぶん年月を経てからのことですがね。私が次々に事業を手がけて、時には本当に苦境に立ち大打撃を受けたとき、父はいつも説教をすることもなく、見守るというよりも励ましてさえくれました。また、私が50歳の時にバブルが崩壊して大きな負債を抱えた時に、親とも思えなかった母が自分の全財産を投げ出してくれました。確かもう70代も半ばになっていました。お金だけが頼りの人生の晩年ですね。その大事なお金をバカな息子に全て出してしまうような思いの強い母でした。
~関根~ バブルの崩壊と信頼する取引先に騙されて、菱木社長も大きな負債を抱えたとお聴きしました。それから追い打ちをかけるように奥様との突然の別れがあり、その苦境と深い悲しみをいかに打開されたのか、その生命エネルギーの源は何だったのかをお聴かせ下さい。
染めQは、私が60歳の時にスタートした会社です。バブルがはじける前は、ヒシキやテロソンという社名で色々な事業を展開していました。塗料関連の開発と販売だけでなく、国内の不動産や海外のリゾート開発まで手を広げていました。13の企業グループで総資産は300億円。借金は150億円ありましたが、年間売上が200億円と毎年順調に伸びていました。
皆さんもバブル崩壊という言葉はご存じですね。1990年頃で、300億円あった資産が一気に十分の一になってしまう、とんでもない時代です。すると銀行は直ぐに返済しろと言いだします。手元にある資産を全部売っても30億円しかないのに、借金は150億円も残っていました。
そうなると信用不安で、原材料を買うにも仕入れ先から現金前払いを要求されます。あの会社は危ないという噂が噂を呼んで、250名いた社員の退職も相次ぎました。毎月の返済も今月は1000万円足らない。やっと終わったと思ったら翌月は1500万足らないという状況が、ずっと続きました。
お金のやりくりは、私と一緒に家内がやっていました。そんな大変な時期に家内が47歳で亡くなります。くも膜下出血で倒れて、意識を失ってから1週間後のことでした。実際には私が殺しちゃったようなものです。それが1994年で、その後もずっと苦しみながら10年経って、120億円くらい返済しました。どうやって返したかは覚えていませんが、こっちで借りて、あっちを返すように綱渡りで、金利40%のサラ金にも手を出したことがあります。
幸い本業そのものは順調で、生き金を入れれば倒産しないで済むので、何でもいいから金を集めました。バブルで痛い目を見た人は、自殺をするか、倒産、夜逃げというような状況でしたから、当時一緒にいた仲間は誰もいないです。奇跡的に、私だけが生き残ったって感じですね。
運鈍根という言葉を聞いたことがありますか?「運」は、ラッキー・アンラッキー、運が良い・悪いの運です。「鈍」というのは、鈍いという字ですね。「根」というのは、根っこの根、根本の根。この運鈍根が、人生の中で非常に重要だという考え方がありました。
結局、人間は頭がいいから成功するのではなくて、成功するまで続ける人が最後には成功するのです。皆どこかで諦めてしまいます。駄目な理由を探して辞めてしまいます。思い返すと挫折しても絶対に諦めない、ずっと続けることが出来たんです。鈍かったんですね。
2, 染めQテクノロジィの社風・活気・土壌がいかに育まれたか
以前の会社を債権者に迷惑を掛けずに整理して、2002年に染めQテクノロジィを設立しました。私が開発したミッチャクロンという商品が継続的に売れたので、その資金を使って研究開発を進めました。最初は人がいないので、私自身も開発に携わりました。
一般的には「二股を掛けるとどっちもうまくいかない。一つのことに集中しろ」と言われますが、私は社内で「二つも三つも掛け持ちしろ」と奨励しています。小学生だって国語・算数・理科・社会の4教科を勉強していますから、大学まで出たら研究室の人間でいながら、施工もできるはずです。実際に現場を知るというのは、研究開発に非常に役に立ちます。うちの営業部は、お客様と相対する役割ですが、サービスや施工も数多くこなしています。
~関根~ 今の主力商品の多くは、菱木社長自らが開発したものですか。
いえ、社員が開発したものです。でもその基となるものは私が作りました。ミッチャクロンという何にでもくっつける技術です。何にでもくっつけるというのは、幅広く応用できます。例えば「カビ封じ」というのは、ミッチャクロンにカビ菌が嫌がる粉をくっつけることで、お風呂の中でもどこでもカビ菌が発生しない状況を創ります。普通は水で流れてしまいますが、ミッチャクロンは剥がれない。先ほどの見学でご覧になった通り、何にでもくっつけるだけでなく強度を増すことも可能です。物と物をくっつけて、単独より強くなる物は色々あります。ミッチャクロンを応用して強度が増すことでビルが倒れなくなる。こういう考え方で、水を防ごう、バイ菌を防ごう、紫外線を防ごうというように、課題を解決する商品を若い社員が作ってきました。
今ある製品の多くは、お客様から言われて作ったものです。ですから皆さんが現場で困っていることがあれば、相談してください。今まで本当に色んなことを頼まれてきましたが、大体はできると思っています。これは染めQの技術が良いというのもありますが、お客様に恵まれているからだと思います。お客様がどう困っているかを細かく教えてくれます。そしてサンプル品を作ると実験をしてくれて課題をフィードバックしてくれます。こういうやり取りをしながら、新しい製品が生まれています。
私は運鈍根で、社員にしぶとく絶対諦めるなと言っていればいいので、楽をさせてもらっています(笑)。
~関根~ 社内に菱木語録がたくさんありますね。例えば「教えるな、自ら考えるようにする」「批判をするな、提案しろ」などがあります。
教える人は、ついつい熱心になりがちです。でも受ける側の気持ちが高まってない時には、鬱陶しいだけですよ。だから効果がない。でも教えた方は「こんなに一生懸命教えたのに、何でできないの」と不満に思います。どちらにとってもハッピーにならないから、教えない。でも本人が尋ねてきたときは親切に教えてあげる。全て主体、自主的に、自分で課題を探さなさいといけない。そのために利用できるものは、部長であろうと社長であろうと新入社員だろうと、自分から働きかけて進めていくという仕事の進め方ですね。
それから、人間面白いところがあります。私が思うに、何もできない奴ほど批判が上手ですよ。本当にできる人は、人のことをとやかく言わない。社内では「人がやれないと言ったら、やってみよう」と声を掛けています。一般的な会社では「人がやれないものは、できないです」という返答が返ってくるかもしれません。でも私は「やれないと、誰が決めたの」と聞くと、染めQではNOという社員はいないですね。これも社員教育の一環です。
世の中には大きく分けると「誰もできそうもない難しいこと」と「誰でもできること」の二つに分かれます。誰でもできることを成功しても得られるものはないし、もし失敗したら多分バカ呼ばわりされます。反対に、誰もできないことをチャレンジするとどうでしょう。例え失敗しても、第三者の目にはよくあんなことにチャレンジしているなと映ります。それから本人にも、結果は出なかったけど、ああすればよかった・こうすればよかったなど頭に余韻が残ります。
この経験は必ず次につながりますね。どちらを選ぶのが成長につながるのか、単純にし過ぎましたが、これは世の中の真理だと思います。
また上司の面倒見が良くて指示ばかりしていたら、その人は成長しません。意欲的に自分から上司に提案するくらいの人が伸びますね。だから、徹底して意欲的な人になるような環境を用意する必要があります。好き勝手にやっていいよ。社長から文句を言われたら、俺が謝るから位に部下と接してほしいですね。本人が面白いと思える環境を創ってあげる役割が上司にはあります。
ただ一つ守らなければならないのは礼儀です。自分と反対の意見であろうと、社長と反対の意見であろうと、堂々と言ってほしい。でも礼儀を欠いた態度をとっていたら、いくら良い意見でも誰も聞いてくれない。こういう事を相手にしっかりと理解してもらうことも大事になりますね。
3, 再生・延命で未来をつくる
~関根~ 私たちがサービスを提供している全てのお客様が、建物やファシリティを通じてご商売されています。建物や設備は必ず劣化しますから延命や補強をすることで、お客様にご負担をかけずに解決できたら素晴らしいことですね。
そうですね。どんなにいい建物、設備を造っても、翌日から劣化がはじまります。この劣化は止められません。世の中には循環があります。例えば雨が降って、水溜りができて、それが水蒸気で飛んで、空気中に戻って、また雨として降ってくる。水と水蒸気、水滴、それから氷になって循環しています。鉄というのも、元々は鉱石の中にある鉄分を採取して、それを加工して鉄材や鉄鋼材を作って、建物や構造物を造ります。でもその表面は造ったときからもう劣化がはじまり、また粉に戻っていきます。
どうしてそうなるのかというと、水と空気と太陽の三要素が自然界の循環を促しているからです。水の中で劣化する、空気の中から酸化して劣化する、太陽で劣化する。実はもう一つの要素があって、菌とウイルスです。これがカビ菌だったら劣化を一生懸命進めて、最後は物でなくしてしまう。
染めQが研究してるいのは、劣化のメカニズムを解明して、その現象をどうしたら変えられるかです。例えば、錆を止めること。世の中は錆で困っています、特に沿岸部に行ったら錆だらけです。錆が原因で弱くなって壊れるものが多いですね。皆さんもご存じの通り、自然界の法則で空気中の酸素と結合したら鉄は錆びると決まっています。その手の研究をしても、自然界の法則は変えられません。錆というメカニズムは変えられませんが、錆びるという現象は変えらます。簡単にいうと、鉄板に黄色いペンキを塗って錆止めのペンキを塗る。これで錆の進行を抑えようとする。でも錆は、分子レベルではペンキの下で徐々に徐々に隙間から大きくなって、上のペンキの膜を破ってそこにヒビが入ります。そうすると水と空気が入ってペンキがはがれてしまうというメカニズムです。
染めQのNKRN66という商品を塗ると錆は止まります。なぜかというと膜が強くて、ペンキの下の錆を抑え込むからです。厳密にいうとペンキの下には小さい錆が残っていますが、膨潤して切ろうとする力を塗料が抑え込み、事実上錆びなくなるという現象です。
次にコンクリートの例です。コンクリートの劣化は、水と空気が原因です。二酸化炭素と反応して、コンクリートは中性化します。空気に触れると収縮がはじまってヒビ割れして、そこから水と空気が入っていく。すると中の鉄筋も錆びてくる。鉄筋は錆びると、膨潤してコンクリートを割ってしまう。鉄とコンクリートは、最初はとても相性がいい。コンクリートの弱点を鉄が補い、鉄の弱点をコンクリートが補っています。でも時間が経つとコンクリートにひび割れが入り、鉄も錆びて収拾のつかない夫婦関係みたいになってしまう。でも染めQの66という商品をコンクリートの表面に塗ると、水と空気を遮断してくれる。強度もあるので、なかなか劣化しない。そういう研究をして、どんなものでも、劣化、老朽化を防いでいくということです。
ビルが倒壊するのは、30階建てのビルであれば29階が倒れることないですよ。だいたい下の1階、2階、3階が倒れます。ですから1階、2階、3階の柱が劣化する前に、新品に取り換えればいいという理屈です。でも現実的には、ビルをジャッキで持ち上げられませんから、壊れるまで手の打ちようがありません。でもその柱に、染めQの強度を増す塗料を注入すれば建物を再生・延命することができるわけです。
塗料を塗ったコンクリートの強度を大学の研究室や第三者機関で証明してもらっていますが、最低でも20倍性能が上がるという結果が出ています。もしこれが実現できれば、日本中の全てのビルの倒壊を免れることができます。
これから私たちの会社は、必ず日本でこれを成功させます。大水が出て、濁流で橋脚が流されることもなくなるし、ビルの倒壊もなくすことができます。
4, 新日本ビルサービスの評価と期待すること
この前、関根社長とお会いしてとても印象的でした。それから社内報に載っている写真がとても素晴らしいと思いました。笑顔が多くて、関根社長の相手の良いところを見て伸ばすっていう考えにとても共感が持てます。
人は自然に人の批判とか悪いところばかりを見てしまいがちです。何をやっている、もっとしっかりしろ、とかね。ところが新日本ビルサービスは、染めQのような会社に対してもいいところを見てくれている。これが成長の秘訣ではないかと思います。
これだけの優良なお客様を抱えていますが、普通なら難しいですよ。もともとは小さい会社だったと思いますから、そういう会社が大手に割って入るのは大変です。だけど新日本ビルサービスには、すごい決め手がある。自分の良さを分かってくれる人って大事ですよね。このことは、相手の心を捉えます。そういう会社だから、スタッフも成長するし、技術を次々と磨いてきたのでしょう。
関根社長には、一つの夢として日本でナンバーワンの会社にしたいという素晴らしいビジョンがある。夢とかビジョンっていうのは、人の頭に強い刺激を与えます。どうしてもあそこへ行きたい、強い想いがあると願いが叶う。
我々人間はみんな同じだと思うんですよ。全ていい人はいない、少しずるい考えがあったり、これではいけないと思うこともあったり、相手のために役に立ちたいなっていう気持ちもあったり、いろんなものが交ざっています。新日本ビルサービスっていう会社は、その良さを結合していくという鮮明な印象があります。新日本ビルサービスも、お客様や現場をよく知っています。お客様や現場での困りごとに、応えるというスタンスで共同できれば、とてもいいマッチングになると思います。
これから世の中がどんなふうに変わっていこうと、染めQも新日本ビルサービスも絶対に伸びる会社です。何故かというと、世の中が困っていることに着眼して、まっしぐらに取り組んでいるからです。
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