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№101「きらりと光るサステナグロースカンパニーを共創する」
2023年11月22日(木)
株式会社船井総合研究所 代表取締役社長 真貝 大介 様
経営学と現実とのギャップを感じた大学生時代
大学生時代、私は地元の神戸大学で経営学を学びながら、ハーバーランドという神戸の観光スポットにあるチュロス屋で4年間アルバイトをしていました。日本で初めての本場スペインのチュロスを扱う店、1990年代後半という、阪神淡路大震災後の復興に燃える神戸で、オープン当時は行列ができる繁盛店でした。
しかし、2年目以降、売上がどんどん落ちていきます。チュロスはおいしい、お客様も満足している、スタッフの接客もいい、自分も大学で得たマーケティングの知識を活かして、ポップを書いたりメニューを組み直したりと、色々な手を打った──なのに私が卒業する年には、売上が初年度の4分の1くらいまで落ち込んでしまいました。私はどうして売上が落ちていくのか、不思議で仕方がありませんでした。
そんな中での就職活動。私がなぜ船井総研に入社したかというと船井総研でアルバイトをした際に、飲食店の活性化や業績アップに貢献している様子を見て、この会社はまさにその答えを持っている会社だと知ったからです。
チュロス屋は私の卒業後に潰れてしまいましたが、この失敗の原因はなんだったのか、当時のトップコンサルタントで私が最も信頼している上司だった岡聡に訊くと、マーケットの規模が小さいという、それだけの話でした。チュロスは国民一人当たりの年間消費支出が10円ほど。当時チュロスは300、400円くらいで売っていたので、計算すると30年から40年に1回しか食べられることのない、あまりにも小さな市場だったのです。
新規事業の立ち上げで成果を上げる
入社当時の私は大阪本社で働いていました。元々はチュロス屋のような小さな会社のコンサルティングに興味があったはずなのに、配属先の関係で大手の仕事ばかり。それはそれで面白かったのですが「やっぱり社長とひざを突き合わせて仕事がしたい」と思っていたところ、2005年、五反田から丸の内への東京本社の移転に合わせて私も東京に異動となり、そこで士業(弁護士・税理士・司法書士・行政書士・社労士・土地家屋調査士など)のコンサルティング部門を立ち上げることになりました。
当時私のスケジュールの半分が大手で埋まっていたので、残り半分、つまり私の0.5人分を司法書士で埋めよう、という感覚で立ち上げたのですが、2、3年でブレイクし、今では司法書士だけでも10人から20人のコンサルタントを擁する一大事業になりました。
ブレイクした理由は2つあります。ひとつは、ちょうどwebマーケティングの黎明期きにあたったことです。それまでの船井総研は『チラシの船井』と言われるほど、コンサルタントは皆、紙のチラシを書いていました。一方で、士業はチラシを配らない──そこでホームページでの発信を手段とし、士業は文字で情報を発信する業種ということもあり相性が良くて、業績を上げられるようになったのです。
そしてもうひとつは、2008年のリーマンショックです。当時大手や不動産業界の仕事が一気になくなり、当社全体の業績が沈んでいた中、司法書士はというと、今でいう過払い金請求のはしりとして、借金問題を解決するソリューションを始めている時期でした。これが不景気になればなるほど持ち上がるマーケットだったのもあり、9割のコンサルタントが不調な中で、私は絶頂の勢いで成績を伸ばしていました。
これら2つの要因が合わさることで「真貝の周りに人を集めた方がいい」と、応援してもらいやすい環境が整い、優秀な人材が集まるようになり、さらに事業の成長が加速するようになったのです。
異例の社長就任、経営者としての自分の役割
私は2020年に6代目の社長として就任しました。当時42歳、創業者の舩井幸雄を除いた歴代社長の中では最年少での就任です。
42歳、コンサルタントとしての経験値もまだ低い中での社長就任──内示を受けたときには、自分が社長に適任だとは思えませんでした。コンサルタントとしてリーダーシップを張ることは求められていないだろう、ではなぜ自分なのか?ということを客観的に説明できるようにならないといけないと思い、自分に社長としてどんな役割を果たせるのかを考えるようになりました。
私を指名した船井総研ホールディングスの高嶋は、私が新入社員の頃から一緒にセミナーを企画・開催した昔からの関係です。高嶋からは、指名の理由として「会社で新しい物事が始まっている時、大体、真貝がその真ん中にいる」と評価していただきました。これは社長になってから見えてきた当社の傾向なのですが、当社の社員たちは活躍し始めると、既存のものを守りたくなってしまう傾向にあります。というのも、活躍しているコンサルタントは多くのお客様を持っているため、そのお客様を大事にしたいという想いが出てきてしまうのです。その結果、既存のお客様、既存のコンサルティングを優先しがちになり、新しいことが始められない。一方で私はと言うと「50社の中で船井総研だけが私を見出してくれた」くらいの気持ちで働いていたので、失うことを恐れずに、新しいことに取り組むことができたのだと思います。また、就任時に高嶋から「ラブレター」として私の良さをワードに書きまとめて送られてきた中には『自分より他人を活躍させるというところに真貝の良さがある。これは会社を率いていくうえではすごく重要なことだから、社長になっても大切にしてほしい』とも書かれていました。ずっと自身が大切にしてきたことだったため、社長になっても一層大事にしていこうと思いました。
また、2020年以降の先の読めない時代にどういう人が経営者になるべきかがテーマの書籍に「会社に何か起こった時に最後まで逃げ出さずにしんがりをつとめられる人」とあり、これがとても肚落ちしました。会社に何かあった時に逃げずに問題の解決をするのに一番ふさわしいのは誰かと聞かれたら、それは私だと言える自信があったからです。
これらのことから、私が経営者として果たせる役割、自分らしい経営者としての仕事の在り方は、新しいことに火をつけ、それを少しずつ広げていくこと、優秀なコンサルタントたちをどうマーケットに押し出していくかということに力を注いでいくこと、何か問題が起こった時に後始末をちゃんとする、ということでリーダーシップを張ることだと認識し、今日までやってきました。
グレートカンパニーアワードにこめられた船井総研の想い
その想いは、創業者の舩井幸雄の理念にあります。舩井は『企業経営の目的は「社会性」「教育性」「収益性」を追求すること』と提唱しており、中でも収益性は、社会性と教育性を追求した結果としてついてくるものであるという考えでした。
一方で、船井総研のコンサルティングは、お客様企業の業績向上に力を注ぎ、その成果によって当社が有名になればなるほど『船井総研といえば業績向上』というイメージに、お客様も当社のコンサルタントも偏りすぎてしまっているきらいがありました。また、私たちのコンサルティングフィーは、お客様の業績が上がった部分から出していただけているという感覚が非常に強いのもあり、いざコンサルティングの現場に出ると、どうしても収益性の優先順位が上がってしまう。そのような環境下で、何らかの形で社会性と教育性を意識できるようにしたい、というのがはじまりです。
そうした課題のもと、トップコンサルタントたちの間で議論が行われました。お金ではない、コンサルタントとしての名誉を、『片手にそろばん、片手にロマン』のロマンを、どう表現していくのか、というところから、グレートカンパニーというコンセプトが生まれました。
― 当社も2014年にグレートカンパニーアワードの『働く社員が誇りを感じる会社賞』を受賞させていただいて、そこから同期受賞の会社さんと貴重なご縁をいただき、たくさんの情報交換の機会をいただきました。そういった、受賞企業同士の切磋琢磨も意図して設立されたのでしょうか? ―
もちろん構想としてはありました。経営者の方々は、地元の経営者同士の会合が色々とおありだと思います。私たちも経営研究会(業種別・テーマ別に定期的に行われる、経営者のための勉強会コミュニティ)をつくっているので、客観的にその様子を見ることができるのですが、そこで感じるのが、井の中の蛙が別の井戸に訪れたときの成長です。いつもの地元の井戸で過ごしていた蛙が、ひょんなことから違う井戸を見つけて入ってみたときに、周りの蛙の大きさと、そこで飛び交うやり取りの刺激に驚いて飛び上がって、それでも頑張ってその井戸に通っているうちに、気が付いたら自分も周りと同じサイズになっていて、また次の井戸を求める……という事例がたくさんあるのです。
私たちの役割のひとつに、お客様が今の井戸を出たくなったタイミングで、適切な次の井戸を提供することがあると思っています。そういう意味ではグレートカンパニーアワードも、その井戸の一つです。ただ、それをものすごく意識して設立したわけではありません。後から受賞企業の皆様がその井戸の中身をつくっていってくださった、という感覚の方が強いです。だからこそ、グレートカンパニーアワードの次の井戸、そのまた次、次……を私たちは提示していかなければならないと思っています。
DX技術ではなく、問題解決こそが美しい
― 当社はこれからの人手不足の時代に向けて導入を進めたAI清掃ロボットが100台を超え、今後は遠隔監視、BIMを用いたビル管理のDX化に取り組もうとしています。
課題を多く抱えるビルメンテナンス業界で経営革新に挑戦している私たちに、船井総研の社長として期待することをお聞かせください。―
当社のお客様企業には、物流、医療、建築と、24年問題に直面している業界のお客様が多くいらっしゃり、人手不足の課題についてお手伝いをさせていただいています。その中で感じるのは、そういった本当に困っている業界でこそ、ユニークな、目覚ましい解決策が生まれやすいということです。時代の最先端を行く画期的な技術でなくても「本当に困っているから、この問題を解決するんだ」というマイナスの出発点から技術を活用することで世界が大きく変わることがある、ということが、私はとても重要だと思っています。
その一番の例は、中国の『Alipay』です。中国の田舎には、もうどうしようもないほど零細の、パパママストアみたいなものがたくさんあって、それがある日突然、皆が『Alipay』を使えるようになり、ホームレスまでもが『Alipay』でお金を乞うようになった。その大きな変化を生み出した技術は、世にありふれた『QRコード』です。
このように、技術レベルが高くなくても、これだけの大きな問題を解決した、ビフォーアフターの振れ幅が大きいソリューションは、すごく美しいし価値がある。そう考えると、新日本さんが置かれている環境は、ある意味ではビジネスチャンスだらけなのです。ビルメンテナンス業界の人手不足や、ビル管理のDX化の遅れ、これからどうしていけばいいんだという業界の閉塞感──これが解決したら救われるビルメン企業が日本に何社あるのか、助かるお客様がどれだけいるのか、ということを考えると、ものすごくワクワクする世界でもあるのではないかと思っています。
仕事と人生において大事なこと
社長として最近の学生と接していて感じるのが、今の人たちは『長く続く』ことにすごく関心があるということです。当社も『サステナグロースカンパニー※』を標榜している中で、お客様の単なる業績アップではなく、持続的な成長を支援しないといけない、ということをよく申し上げているので、『長く続く』の魅力はわかります。
ただ、話を聞いていると最初から10年、20年先のことを考えてしまいがちだと感じます。私はそうではなくて、先のことを思えば思うほど、毎日の仕事をいかに充実させるかということに戻ってくると考えるのです。先のことが気になりすぎて今がおろそかな状態で見える先の世界と、今のことがきっちりできていて見える先の世界は間違いなく違うはずだというのが、私の中で信念としてずっとあります。そして実際に、その信念のもとに20年間やってきました。
もちろん、企業規模が大きくなればなるほど自然と先のことが見えてくる、というのもありますし、立場で見えるものも変わってきます。私自身も若手の頃のスケジュールと今のスケジュールを比較して、どこまで未来志向の仕事ができているかと聞かれれば、間違いなく今は1年後、3年後の仕事をしているので、そういう意味では先のことをやっています。しかし来年のカレンダーを見るかというと、見ません。明日のカレンダーくらいしか見ずに、できるだけ毎日の仕事に集中するようにしています。タスクの優先順位をつけるのに重要度と緊急度のマトリクスで考える手法がありますが、私は緊急でない仕事は重要ではないと考え、重要な仕事は緊急になるように、すぐに近々のスケジュールに入れるようにしています。
先のことで気になることが色々あっても、今日の仕事にちゃんと100%を出しきろう、そうやってパフォーマンスを上げていけば、明日、明後日はもっといい日になる。当社には10年20年と長いお付き合いになっているお客様もいらっしゃいますが、最初から20年付き合うことを決めているお客様はいません。毎年「今年は業績が上がったね」「今年はちょっといまいちだったね、でも頑張ったね」といったことを繰り返して、毎年の契約の更新をずっと積み上げていっての20年ですから、毎日、毎年、しっかり自分に設定した課題をクリアすることを続けていけば、結果的に私たちが望む『長く続く』という持続的なものがもたらされるのだと、私は信じています。
※サステナグロースカンパニーとは
どんな状況でも業績を伸ばし、企業価値を持続的に向上できる「強さ」と、より遠いステークホルダー・一人ひとりを思いやれる「優しさ」を兼ね備えた会社のこと。
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